日本は、国土の2/3が森林、残りの1/3を居住や農業・商業などに利用しています。

そのため、計画的で合理的な土地の利用が必要となり、住宅地や商工業用地の確保と農地の確保が競合しているのが現状です。

農地は食料を生産する基盤で重要な資産であるため、農地耕作者保護と許可届出制度による土地利用規制を行っています。

農地転用とは、簡単に言えば『農地を農地以外に利用すること、または他人に売ったり貸したりすること』です。

農地法による国の農業保護政策により、勝手に農地を農地以外に利用することはできません。

農地以外に利用したい場合には、農地転用の許可・届出が必要になります。

農地かどうかについては、不動産登記簿の『地目』をご確認ください。

もし『田・畑』などと記載されていれば、農地ということになります。

一見、普通の土地に見える場合もありますが、書類上『農地』になっていれば農地法の制限を受けます。

これから宅地造成・開発などを検討されている方は、必ず不動産登記簿でご確認ください。

農地法によって制限を受けていると、建設・開発などができません。

農地法違反が発覚した場合、『3年以下の懲役、または300万円以下の罰金』の適用があり(農地法92条)、また、工事の中止命令などが出されることもあります

工事中止命令が出されてしまうと、建設など工事がストップしますので経済的損失を受けます。

つまり農地法違反は、結果的に多大な損害をもたらす可能性があります。十分な注意が必要です。

許可の種類

農地法の許可には、農地法に記載されている条文番号によって『3条許可』、『4条許可』、『5条許可』があります。

3条許可 農地を農地として利用するために他人に売買、贈与、賃貸借等する場合

3条許可は『農地を農地として利用するために誰かにあげたり、売ったり、使わせたりする際に必要な許可』です。この3条許可は農地転用にはあたりません。農地転用は農地を農地以外として利用するためにすることを言うので、農地を農地のまま権利を移したり、設定することは農地転用ではないからです。しかし、この場合でも、農地を守るために作られた農地法では許可が必要とされています。

3条許可では、一般基準として『土地の権利を得る人がきちんと農地を耕作してくれるかどうか』が許可の判断基準になります。そのため、権利を得る人が、①現在ある程度の面積(予定地ごとに決まっている最低限度の面積)を耕作している人か ②現在ある程度の人や機械を使って耕作しているか ③実際に予定地に通って耕作できるか・・・等の条件をクリアしなければ許可は受けられません。

4条許可 自分の所有する農地を自分で使うために農地以外に転用する場合

4条許可は『農地の所有者が自身のために農地を農地以外に変更して利用する際に必要な許可』です。

4条許可では、一般基準として『農地を農地以外として利用する』という目的や計画に対して、①目的や計画が妥当であるか ②目的に対して転用する面積が妥当(必要最低限)であるか ③目的達成のための資金が確保できるか ④周りの農地に悪影響を与えないための対策がなされているか・・・等が判断基準となります。

5条許可 農地を他人が農地以外として利用するために売買、贈与、賃貸借等する場合

5条許可は『農地の所有者が自身以外のために土地の所有権を移したり、土地の利用権を設定したりする際に必要な許可』です。

5条許可では、一般基準として『他人に所有権を移したり、利用権を設定する』ことに対して、①目的や計画が妥当であるか ②目的に対して転用する面積が妥当(必要最低限)であるか ③目的達成のための資金が確保できるか ④周りの農地に悪影響を与えないための対策がなされているか・・・等が判断基準となります。

手続きについて

都市計画区域内の農地を転用する場合(※1)

都市計画区域内は市街化区域と市街化調整区域に分けられており、手続きも異なります。

市街化区域 農地法上の農地転用の許可は不要。ただし、農業委員会への届出が必要

市街化調整区域 農地転用許可が必要。ただし、市街化調整区域内は農振法(農業振興地域の整備に関する法律)の農用地区域に設定されている場合が多く、この場合、そのままでは原則農地の転用はできません。農用地区域を転用するためには、農用地区域からの除外(農振除外)手続きが必要となり、その上での申請をします。(※2)

※1 市街化調整区域内において開発行為(宅地の造成など)を行う場合には、都市計画法に基づき都道府県知事等の開発許可が原則必要になります。

開発行為とは、主として建築物の建築又は特定工作物(処理場、ゴルフ場等のスポーツ施設、遊園地等のレジャー施設、墓苑など)の建設にあたり土地の区画形質の変更することをいい、一定規模以上の開発行為をする場合には許可を得る必要があります。(別表1の通り)
 

(別表1)開発許可が必要な開発行為

市街化区域における開発行為その規模が1,000平方メートル以上である場合
区域区分が定められていない都市計画区域
における開発行為
その規模が3,000平方メートル以上である場合
市街化調整区域における開発行為規模に関わらず許可を得る必要があります。
都市計画区域外における開発行為1ヘクタール以上である場合

区画の変更とは、土地の利用状況・形状を客観的に判断して一団の区画とみなされる土地の範囲を、建築物の建築又は特定工作物の建設のために変更することです。単なる土地の分筆・合筆は対象となりません。
形状の変更とは、土地に切り土・盛り土又は一体の切盛土を行うことです。建築物の建築または特定工作物の建設自体と不可分な一体の工事と認められる基礎打ち、土地の掘削等の行為は対象となりません。

開発行為にあたるかどうかは行政側の判断を仰ぐ必要があるので、図面等を持参して相談するのが確実です。

※2 農用地区域内の農地を転用する場合
農用地区域とは、「農業振興地域の整備に関する法律」(農振法)に基づき、市町村が農業振興地域整備計画において、今後長期にわたり農業上の利用を確保すべき土地の区域として定めているものです。

農用地区域は、農業上の利用を確保するために定められた区域であることから、農業以外の目的に使用することにより、他の農地が農業上の利用に支障が生じたり、農業施策の実施の妨げにならないよう、農振法によって農用地区域から除外(農振除外)できる場合が限定されております。除外の容認については、要件をすべて満たす場合に限られます。(申出により、必ず農振除外が容認される訳ではありません)容認の要件についてはお問い合わせください。

農振除外手続きについては、『かなり難しく(原則不可)、期間もかかる』とお考え下さい。

都市計画区域以外の農地を転用する場合

(別表1)の通り、1ヘクタール以上の大規模な開発行為については、都道府県知事の許可が必要となります。

農業委員会事務局での事前相談

転用計画の概要を説明し、今後の届出に必要な書類等を確認します。多くの農業委員会事務局では届出書の書式と必要書類のリストを配布していますので確認します。必要書類のリストには、必要な添付書類はどこで取得できるかまで記載してあることが多いですが、わからないところは窓口で確認します。

※予定地が土地改良区の範囲内の場合、土地改良区への届出等の手続が必要な場合があります。その場合、農業委員会事務局で、どの土地改良区や関係者に連絡を取ればよいか確認します。

届出書類の準備・提出

届出に必要な書類は提出先によっても異なりますが、代表的な書類は以下の通りです。

届出書 書式や記載例は農業委員会事務局窓口で配布していることが多いです。最近はホームページでダウンロードできるところも多くなっています。

登記事項証明書 土地の地目・広さ・所有者等が記載されている書類で、法務局で取得できます。

位置図 予定地の地図です。住宅地図等で良いというところが多いです。

開発許可申請書写し 農地転用の他に開発許可が必要な場合は農地転用と開発許可の申請を同時にすることが多いため、農地転用の際に開発許可の申請書の写しを添付して同時申請していることを知らせます。

委任状 申請を行政書士等の代理人に委任する時は委任状が必要です。

※申請地の現在の所有者が登記簿上の住所から転居している時は、その人の住民票が必要になります。

※上記以外にも、申請地の立地等により添付書類を求められることがありますので、農業委員会事務局でよく確認が必要です。

通常、約1週間で「届出を受け付けました」という『受理通知書』が発行されます。

上記『受理通知書』を添付して登記地目を変更することで登記簿上の農地転用手続は完了します。(所有権の移転登記は『司法書士』、地目変更は『土地家屋調査士』の業務となります)

ご注意ください!

農地転用は行政書士の業務範囲です。(行政書士法)
行政書士以外の者(弁護士は除く)が、対価を得て農地転用手続きに関与した場合には、行政書士法違反になります。

※行政書士法 第1条の2 

1.行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他、人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。

2.行政書士は、前項の書類の作成であっても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。

上記より、『他の法律で制限されているもの以外は、書類を作成し、それを官公署に提出して報酬を得ることができるのは行政書士のみである』ということになります。

つまり、行政書士以外の者が、官公署に提出するような書類を作成し、お金を頂くということは禁止されているということです。

行政書士以外の者が農地転用手続きをして報酬を得た場合、以下の処罰の対象となります。

・実名の公表

・1年以下の懲役、または100万円以下の罰金

行政書士法違反者を知った人は誰でも、警察や検察庁に告発をすることができます。

農地転用を依頼する場合、その人が行政書士かどうか確認が必要です。

また、行政書士以外の方は、農地転用に詳しいからと言って、他人の農地転用手続きをして報酬を得ることはできません。

※申請書の作成は自分で出来るが、やむを得ない事情により農地転用の申請に出向くことや各種証明書の請求ができない場合もあると思います。このような場合、委任状によって、申請者本人以外が提出や各種証明書の請求などをすることができます。

知らないうちに、多大なリスクを負う可能性があります。

何気なく、行政書士ではない知人に農地転用を依頼し報酬を渡してしまうと、その知人は行政書士法違反の対象になり、刑事罰に科される可能性があります。

また、その知人が過失により農地転用手続きに失敗した場合、業務保険の対象外となりますので、結果的には土地所有者も保護されません。

農地転用手続きの失敗は、損害が多額になることがあります。

このようなことは、知らなかったでは済まされません。

農地転用に関して不安やお困りごとがある際は、当事務所へお気軽にご相談ください。