法人とは
法人とは、『自然人以外で、法律によって『人』とされ、権利義務の主体となることができるもの』をいいます。
日本では、民法第33条の定めるところにより、一般社団・財団法人法や会社法など、法律の規定によらなければ成立しないとされています。
※民法第33条
- 法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない。
- 学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営及び管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。
会社設立のメリットとは?
よく受ける質問に、『個人事業を行うのと会社設立するのとではどちらが得か?』というものがあります。
用意できる資金や売上の大小等、さまざまな条件により、個人事業の方がいい場合と法人化した方がいい場合があります。
一般的に言われている個人事業の場合と法人化した場合との違いは下記の通りです。
1.対外的な信用力が高まる。
個人事業の場合、お取引先によっては『会社組織でなければ取引をしない』と言われてしまうことがあります。銀行から融資を受けるときや、国・都道府県等から許可を受ける場合、個人より法人のほうが取りやすいという事実もありますので、対外的信用力を高められることが会社設立の最大のメリットといえます。
2.税金が安くなる。
ある規模まで年商が大きくなると、一般的に会社のほうが税金が安くなります。これは個人の場合、所得が増えれば増えるほど、税率が高くなるという『累進課税制度』を採用しているのに対して、会社の場合は所得が増えても一定の税率が課されるからです。また、個人事業にくらべると必要経費が認められやすいメリットもあります。資本金1,000万円未満の会社の場合、2年間消費税が免税されるという、忘れてはならないメリットもあります。
3.出資者の責任が有限責任になる。
個人事業主は事業上の責任・債務について無限の責任を負いますが、法人の場合、経営者・出資者は自分の出資の限度の責任しか負いません。このため、自分の財産まですべて切り崩して債務に充てるという事態を回避することができます。
4.決算日を自由に設定できる。
個人事業では決算日は12月31日と決まっており、変更はできません。一方、会社設立をした場合、決算日は設立時に自由に設定できます。決算までなるべく期間があった方が事務手続きも楽ですので、会社設立日から1年後を決算月に設定する事業主の方が多いようです。
5.経営者の退職金や生命保険料を必要経費に出来る。
個人事業では事業主や事業専従者(親族等)への退職金は個人事業の必要経費にすることは出来ませんが、法人の場合は役員や家族従業員に対しても退職金を支給でき法人の必要経費にもなります(税務上過大な退職金を除く)。また個人事業者の生命保険料は一般生命保険料で5万円、年金生命保険料で5万円の計10万円の所得控除が上限ですが、法人の場合は経営者を被保険者にして、受取人を法人にすると保険料の全額または1/2が法人の必要経費になります。
6.事業の永続性
個人事業の場合は、例えば事業主が死亡してしまうと、事業主の資産・負債は相続財産となり遺産分割の対象となってしまいます。法人であれば代表者が死亡しても後任の代表者が就任すれば法律上は事業の継続性が途絶えることがありません。取引先も法人が相手であれば個人事業主が相手の場合よりは安心して取引が行えます。
会社の種類
会社には、株式会社・合同会社(LLC)・合資会社・合名会社の4種類があります。
十分な売上を見込め、事業拡大に根拠がある場合には、株式会社での開業、または法人成りを検討すべきです。
設立手続きの費用や手間を考え、定款の認証が必要なく、組織構成も単純で比較的自由に設定できる合同会社を選択する方法もあります。
いずれにせよ、組織形態に囚われることなく、目的や事業の規模に沿って、どのような法人設立を選ぶかが大切です。
特に、実務において多用される「株式会社」と「合同会社」について、それぞれの特徴をご説明します。
株式会社
『株主総会』と『取締役』という機関が基本となる会社です。会社に出資した者(株主と呼ばれます)が集まり経営方針を決定します。決定された経営方針を実行するのが『取締役』です。役員には、取締役・監査役・会計参与・大規模会社で選任される会計監査人等があります。取締役が3名以上の場合、取締役会を設置し経営方針を決定することができます。必ずしも取締役会を設置する必要はなく、設置しない場合には株主総会が会社に関する一切の事項を決議できる機関となります。また、非公開会社となりますが、一人で株主と取締役を兼ねて株式会社を設立することも可能です。社会的認知度も高く、広く一般の人からも出資を募ることができます。中小規模の株式会社は、出資者と社長が同一人になっている事が大半です。
合同会社
合同会社は、合名会社・合資会社と共に持分会社と呼ばれます。合同会社は、他の持分会社とは違い有限責任社員であるため、会社の債務について履行義務がありません。そのため設立時の出資は、必ず金銭などによる出資を求められます。しかし、柔軟に活動することを想定されているため、株式会社ほどの規制・制限・義務はありません。原則として、出資した社員は全員代表権を有し、意思決定について定款で定めのない場合には、全社員の過半数によって決定します。また、定款の定めにより一定の者に権限を持たせることもできます。設立費用が安く、柔軟に動けるため、『最初は合同会社を設立し、業績が向上してきたら株式会社への組織変更する』というのも、ひとつの方法です。
株式会社と合同会社の違い
株式会社 | 合同会社 | |
責任 | 有限責任 | 有限責任 |
出資 | 金銭やその他の財産 (信用や労務での提供は不可) | 金銭やその他の財産 (信用や労務での提供は不可) |
定款認証 | あり | なし |
決算報告 | 必要 | 不要 |
自治 | 法規規制(法での決まりが多い) 利益や権限の配布は出資額に比例する | 定款での自治(社内規定で決定) 利益や権限の配布は比較的自由 |
機関設計 | 取締役1人+株主総会 | 制約はなく、意思決定は業務執行委員の過半数で決する |
役員の任期 | 10年 | なし |
経営と所有の分離 | あり | なし |
社会的認知度 | 高い | 低い |
株式公開 | できる | できない |
費用(目安) | 登録免許税 ¥150,000 定款認証 資本金等の額によって変動 ¥30,000~¥50,000 印紙代 ¥40,000 (電子定款の場合は¥0) 会社実印や銀行印 ¥数千円~ 行政書士への報酬(定款作成・設立手続き等) 司法書士への報酬(設立登記) | 登録免許税 ¥60,000 定款認証 ¥0(不要) 印紙代 ¥40,000 (電子定款の場合は¥0) 会社実印や銀行印 ¥数千円~ 行政書士への報酬(定款作成・設立手続き等) 司法書士への報酬(設立登記) |
設立の手続き
会社の基本事項を決定
まずは、会社の基本事項を決定します。具体的には、『どのような事業を展開するのか?』『だれが会社を経営していくのか?』など、会社概要・基本事項を明確にしていきます。決定すべき会社の基本事項は以下の項目です。
- 会社名
- 会社所在地
- 役員(株式会社では取締役、合同会社では代表社員)とその任期
- 設立日
- 事業の目的
- 資本金の額
- 決算日
- 発行株式総数(株式会社で必要)
- 株主の構成(株式会社で必要)
定款の作成・認証
つぎに、基本事項・規約・規則を記載した定款を作成して公証役場の交渉人から認証を受けます。会社法によって定められた定款の記載事項は、大きく以下の3点です。
絶対的記載事項 記載必須の項目。『商号(社名)・目的(会社の事業目的)・本店の所在地・設立に際して出資される財産の価額又はその最低額・発起人の住所及び氏名・発行可能株式総数』の6項目。
※発行可能株式総数については、定款認証時に定めておかなければならないわけではありません。定款認証時に定めない場合は、会社の成立のときまでに、定款を変更して定めることになります。
相対的記載事項 定款へ記載することで効力を有する項目。現物出資・代表者の報酬など。
任意的記載事項 定款に記載がなくても効力を否定されない項目。
定款の作成は必須ですが、認証が必要なのは株式会社のみ。合同会社の設立であれば作成した定款の認証は必要ありません。
資本金の払い込み
資本金の払い込みを行います。代表者自身の名義で代表者の個人名義口座に『振り込み』しなければなりません。資本金の払い込みを証明する、通帳のコピーも用意する必要があります。
登記書類の作成
法務局に登記申請するための書類作成に入ります。登記申請書を作成するとともに必要書類を揃え、A4サイズにまとめて製本する必要があります。必要書類は以下の通りです。
株式会社設立に必要な登記書類 | 合同会社設立に必要な登記書類 |
---|---|
登記申請書 | 登記申請書 |
登録免許税の印紙を貼った台紙 | 登録免許税の印紙を貼った台紙 |
登記すべき事項を記載した書面 | 定款 |
定款 | 代表社員・本店所在地・資本金の決定を知らせる書面 |
取締役の就任承諾書 | 代表社員の就任承諾書 |
資本金の払込証明書 | 資本金の払込証明書 |
法人印鑑届出書 | 資本金額の計上に関する代表社員の証明書 |
発起人の決定書 | |
監査役の就任承諾書 | |
取締役全員の印鑑証明書 |
会社設立の登記申請
最後に、本社所在地を管轄する法務局に必要書類を提出して登記申請を行います。株式会社であれば代表取締役が、合同会社であれば代表社員が法務局に直接出向いて提出することが基本。なお、資本金払い込み後2週間以内に登記申請が必要なため、注意が必要です。
設立後にすること
株式会社の場合
税務署への届出 法人設立届出書、給与支払事務所等の開設届出書、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 など
社会保険関係 健康保険・厚生年金保険新規適用届、健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届、労働保険保険関係成立届 など
合同会社の場合
合同会社の業務執行社員は、株式会社で言えば取締役にあたる役員のことです。労災保険や雇用保険といった『従業員向けの保険』に加入するには、会社に雇用されていなければ加入できません。業務執行社員と会社との関係は、雇用関係ではなく委任関係となっているため、業務執行社員は労災・雇用保険といった従業員向けの保険には加入できません。※労働者を雇う場合に、労働者は労災保険・社会保険への加入が必要です。
行政書士にできないこと
会社設立の流れの最後にあたる『登記申請書の作成』だけは、行政書士の資格ではできません。登記業務は、司法書士の業務です。
しかし、行政書士の中には平然と登記を行っている者がいるのも事実です。多くの行政書士がごく普通に、会社設立代行といって、登記申請書の作成を含む業務を請け負っているのが現状です。
この場合、登記申請書はご依頼者様自身が作成したもので、『行政書士の作成によるものではない』という建前で、書類を提出しているのだと思います。法務局の窓口も、書類作成者として行政書士の名前が出なければ、それ以上追及することはないのかもしれません。登記申請書は普通に受理され、補正がなければ、そのまま登記完了となるようです。
ただ、先に申し上げた通り、登記業務は司法書士の業務です。行政書士が行うと法令違反になります。たとえ登記分の報酬を無償にしても法令違反です。もしかしたら、『登記までしたら法令違反になるとは知らなかった』と疎明(言い訳)をする行政書士がいるかもしれませんが、そのような行政書士は信用してはいけません。行政書士である以上、『法律を知らなかった』では済まされません。
世間では、『会社設立=行政書士の業務』という認識が強く、それがこうしたことを招いている一因かもしれません。登記は行政書士業務ではないということは今一度認識しておきましょう。当事務所では、登記業務は提携先司法書士にて行いますので、ご安心ください。